季沙は、本当の娘には、もしかしたら、ならないかもしれない。
そう思ったのがどうやら口に出ていたみたいだ。
いつまでも少女のような母親が、眉を下げてこっちを伺うように見ている。
「なんで? ついに史上初の喧嘩でもしちゃった?」
「喧嘩は絶対しない」
季沙がダメな俺に怒ることはたくさんあっても、その逆は絶対にないから。
彼女に対して腹が立ったことなどこれまでに、そしてきっとこれからも、一度だってない。
「俺……卒業したら、東京に行こうと思ってる」
こんな形での報告になってしまったことは本当に申し訳なく思う。
ふたり暮らしでも広すぎるこの家に、たったひとり残していくこと、どうしても、許してほしい。
「そっか……、もう、決めてるんだね」
だけど母さんは笑んだまま静かにそう言ったのだった。
「それで、なーに? きっちゃんは連れていってあげないつもりなの?」
だからいまそれを決めかねて、悩んで、夕食すら喉を通らないという酷い有様なのだ。
「わからない。東京に行くかもって言ったら、頑張ってねって言われたし。進路希望、全部地元の大学書いてたし。家出る自信ないって言ってたし。そういう季沙についてきてほしいとは、とても……言えないし」
しゃべっていてだんだん地球上から消え去りたくなってくる。
季沙を失って死ぬより前に、俺は自分の女々しさに殺されるかもしれない。



