「お母さんよりうーんと洸介のことわかってて、もうね、たまに悔しくなっちゃう。ほんと、きっちゃんにだけは頭上がんないよね」
「うん……ほんとに」
「ねー」
目を伏せてしまったのはたぶん完全な無意識のうちだった。
「……ねえ、もしかしてきっちゃんのことかな」
そういう俺を見て、母さんは小さく笑った。
「知ってるよ。洸介の唯一の弱点がきっちゃんだってこと。洸介にこんな顔させるの、世界できっちゃんしかいないもん」
俺のことがわからないなんて真っ赤な嘘だ。
こんなにも全部わかっているくせに。
「なにがあったの? あ、けどカノジョとのことなんてお母さんに言うの嫌かあ」
「嬉しそうに言うのやめて」
「だって嬉しいんだもーん! きっちゃんがほんとの娘になるなんて夢みたい」
幼なじみが恋人どうしになったことを知ったときも、そういえばこの人は、これでもかというほど喜んでいたな。
つきあい始めて1週間くらいたった朝、季沙がぽろりとこぼしたんだ。
寝ぼけていたんでどういう話の流れだったかは覚えてないけど。
俺も、嬉しかった。
べつに隠していたつもりもないけど、言うタイミングもなかったから。
ぽろりとでも、季沙のほうからそんなふうに言ってくれたことが、本当に嬉しかった。



