「ちょっとさ、久しぶりに話そうよ」
母さんはとても落ち着いた声で言った。
「ていうかなんかでかくない?」
同じことを考えていて笑ってしまう。
「ちょっと悔しいなあ。身長、いま何センチだっけ?」
「こないだの身体測定は178だった」
「うわ! ほんと? もうお父さんのこと追い抜いちゃったんだね。お父さんは176で止まってたよ」
懐かしい色でゆらりと揺れた瞳が、優しく俺を映した。
「ほんとに、そっくりに育ったよね」
あまりにも柔らかな微笑みに、なぜかどうしようもなく、泣きたくなる。
「ねえ洸介、悩んでることがあったら言ってほしいな」
体をこっちにむけて、母さんは静かに切り出した。
「べつにお母さんになんかしゃべりたくない!って思うならこれ以上は詮索しないけど」
おどけたように笑い、俺に渡したのと同じ甘ったるいココアをすする。
「でもお母さん、母親なのにぜんぜん洸介のことわかんなくて。ほんとは言われなくてもわかってあげないといけないんだろうなーって思うんだけどね。ごめんね」
昔に比べるとずいぶん歳をとったようなその声に耳を傾け、黙ってマグカップに口をつけた。
たちまち甘い温かさがじんわりと体全体にしみこんでいくみたいだ。
「もしかしてきっちゃんなら、顔を見ただけで、全部わかっちゃうのかな」
たしかに、季沙のことは俺もたまにエスパーなんじゃないかと思うときがある。
それくらい季沙は俺のことを的確に理解し、常に考えてくれて。
それは恋人という名前が付く前からずっとそうだった。
そして俺はずっと、季沙のそういうところに甘えながら、生きてきたんだ。



