思い出すだけで心が鬱々と沈んでいく。
あれは、ふたりの人生は別々のものだと主張する言葉だった。
本当のところなんてわからないけど、俺にはどうしたって、そう聞こえた。
「一緒に行こうって言ったのか」
「いや」
「なんでだよ、そこは言えよ」
だって、思い当たるところが少なからずあったのだ。
ワキさんから、季沙は付属品でも人形でもないと言われて、俺はあのとき、たしかにぎくりとしてしまった。
たぶん俺が、一緒に行こうと、季沙が必要なんだと言えば、彼女は迷うことなく頷いてくれるだろう。
自分のことなどいっさい考えず、俺のためにそうしようとするはずだ。
季沙はそういう人間なのだ。
俺が自分から季沙に好きだと伝えなかったのも、それがいちばんの理由だった。
「トシは?」
リズム隊どうしで楽器をいじっていたところにアキが問うと、ベーシストのほうがふっと顔を上げた。
なにが、と軽い感じで返ってくる。
「エミリちゃん。どうすんの? 東京、連れてくのかよ?」
「なんで俺が連れていくんだよ」
トシはあきれたように笑った。
「うーわ。いまの聞いたか? マジでトシみたいなやつがいちばんタチわりーよな」
「アキはほんといつも人聞き悪いな」
篠岡衣美梨というあのお嬢様とつきあっているのか、つきあっていないのか、トシはあまりはっきりしたことを言わない。
季沙もそのあたりについてはよく知らないらしい。
それでもほかの誰よりも特別扱いしているのは外から見ていてわかるけど。
ファンに手を出すのは後々が面倒なのでよくないと思っているが、トシならうまくやるだろうし、なんの口出しもしていない。
相手も、いい人そうだし。



