バンドを組んだ理由ならいくつかある。
父さんが学生時代バンドマンだった話を聞いたとか、
誰もいない家に早々と帰るのが嫌だったとか、
ほかにも、いろいろ。
でも、なにを取ってみても、返ってきたものに比べればとんでもなく軽い気持ちだ。
本当に、こんなことになるなんて夢にも思っていなかったのだ。
小さなライブハウスで、遊んでるみたいな対バンをして。
あまり音響の良くないスタジオで、じゃれあうみたいに音を鳴らして。
それだけで充分だった。
それだけで楽しかった。
一生こんなことをして生きていけたらいいのに、と思うくらい。
ああ、そうか。
俺はもしかしたら一生、“こんなこと”を続けていけるかもしれないのだ。
俺はきっとギターのために季沙を手放せない。
それと同じくらい、季沙のために音楽をやめるなんてこと、俺にはもうできないんだと思う。
「こうちゃん」
心配してくれている顔。
いつだって人のことばかりで、自分のことなんて二の次で。
そう、いつだって、俺のことばかりで。
大丈夫だよ、と何度言ってもらっただろう。
この小さな手に、何度繋ぎとめてもらっただろう。
どうしようもできないほどさみしくて、悲しくて、孤独で、やるせない夜、何度このぬくもりに安心を貰ったのだろう。
「季沙、ごめん」
「うん? どしたの」
貰うだけ貰っておいて。
なにひとつ返せないままで。
俺は自分のやりたいことをやるために、季沙をここにひとり置いていくのか?



