一曲弾き終わったところでちょうどよくインターホンが鳴った。すぐに扉の開く音がする。
「こうちゃん、おかえり」
ひょっこり顔を出したかと思えば無邪気に駆け寄ってきた。
その笑顔を見ると、その台詞を聞くと、いつも俺は情けないくらい安心してしまうのだということを、季沙はきっと知らないでいると思う。
「遅くまでお疲れさま」
ためらいもなく腕のなかに飛びこんできたのを受け止めた。
ふにゃりと緩んだ頬は見た目から柔らかそうで、ついつい触りたくなってしまう。
「冷蔵庫にグラタン作っといたよ。まだ食べてないよね?」
母さんが仕事のとき、季沙は当たり前のように俺に食事を作ってくれる。
季沙のところの余りものじゃない。
わざわざ俺のために用意してくれているのだから、本当に頭が上がらないと思っている。
「あ、それとも先にお風呂入る?」
「ん、先に食べたい」
「わかった! 準備するからちょっと待ってて」
季沙はいい奥さんになるだろうなって、小さな背中を眺めながらぼんやり思った。
そのとき隣にいるのは本当に俺なのだろうかと、同時に情けなさすぎることを思ってしまった。
「ね、きょう、なんだったの? 脇坂さんに話があるって言われてみんなで行ってきたんでしょ」
ぎくりと、心がわかりやすい音を立てた。



