なんとなく、ほかになにをする気にもなれず、ソファに座ってギターを抱えた。
俺がまだ幼かったころ、父さんもよくこの場所でギターを弾いていたっけな。
いま考えると特別上手かったというわけでもないのかもしれない。
あくまでも趣味程度という演奏だった。
それでも俺には、それが世界中のなによりもかっこよく見えたんだ。
難解そうな弦を簡単に操ってみせる姿は、テレビのなかで悪者をやっつけるヒーローなんかより何倍も強い存在に見えた。
飽きることなくギターを弾いてほしいとせがむ俺に、世界一のギタリストは困った顔をしながらも、いつも弾き語りをしてくれた。
父さんがよく弾いていた曲がある。
イギリスのロックバンドが80年代にリリースしたナンバー。
そういえば、俺が最初に買ったタブ譜はそれだった。
父さんが死んで、自分もギターを触るようになって。そのうちただ弦をいじっているのにも飽きてきて、なにか曲を弾いてみようと思い立ったんだ。
楽器屋で見覚えのあるタイトルを見つけたからなんとなく買ってみた。
中1の春だったと思う。
まだ俺の背が、季沙よりも低かったころだ。



