グッバイ・メロディー



「ただいま」


永遠に続いていそうな暗闇のなかに、まるで自分のじゃないみたいな声が吸いこまれていった。

壁に右手を這わせてスイッチを探し、明かりを点ける。


母さんの仕事のスケジュールをすべて把握しているわけではないけど、この時間にいないということは、今夜は夜勤なのだろう。

どれだけ働くつもりなのか。
高校を出たら進学しないとは以前から伝えてあるというのに。

老後のためだ、と本人は笑っていたけど、これほど働きづめだとまず無事に老後すら迎えられないんじゃないかと思う。


いいのだけど。

母さんは仕事が好きみたいだし、あえてなにも言わないでいる。

べつに、まだ元気そうだし。


仕事ばかりであまり家にいない母さんと、バンドばかりであまり家にいない俺とでふたり暮らししているこの一軒家は、夜でも明かりが灯っている時間が極端に少ない。


隣り合って建つ瀬名家と相川家は、父親どうしが一緒に買ったらしい。

彼らは大学時代からの親友だと聞いている。


だからふたり暮らしにはどんなに広くとも、絶対に手放せないのだと。

まあ引っ越すことになったところで、季沙と離れることになるだけだし、それに関しては俺も全面的に同意だ。