グッバイ・メロディー



俺たちが少しでもそういうのを嫌だと思うならば、自分たちの手だけでのし上がりたいという野望を持っているならば、差し伸べてようとしているこの手はすぐさま引くつもりだ、ということだ。

きっとこの人も同じ道をたどってきたからこそ、そういう複雑ともいえる気持ちはよくわかるのだろう。


「まあ、そのあたりはゆっくり考えてもらってかまわねえが」


ボーカリストからすぐさま煙草を取り上げた元ベーシストが、交代するように口を開いた。


「正直、東京に行くってのはそうそう簡単なことじゃねえぞ」


もちろん環境の過酷さにおいてもそうだけど、と前置きをして。


「なによりいちばん難しいのは、大切なものを全部置いていく覚悟を持たなきゃならないってことだよ。おまえたちはなんの確証もない場所に行くんだ。荷物は軽いほうがいい。足枷は少ないほうがいい」


吸いかけの煙草をふうっとふかすと、かつて夢を持ってその街に出たはずの人は、まるでなにかを、いつかの瞬間を思い出すように、静かに目を伏せて笑ったのだった。


「きっと想像以上の苦労をかけるだろうから、大切なもんはひとつも持っていかないほうがいい」


だからあの人を一緒に連れていかなかったのか、

なんて野暮なことは、わざわざ問う必要がないと思った。


隣にいるアキが一瞬ひどく傷ついた顔をした。

勘が鋭くて察しのいいやつだから、なんとなく気づいているんじゃないかとはずっと思っていたけど。


たぶんもう、全部を知っているのだろう。

全部、承知の上なんだろう。