「だったらいつまでもこんなせまい街にはいられねえな」
煙草を灰皿に押しつけたワキさんがワントーン明るくそう言うと、
「東京に来ないか?」
と、関谷さんはあのときと同じ笑顔で言ったのだった。
フェスに出てみないか、
と雲の上のような存在から唐突に言われたあの衝撃は、いまだに忘れられない。
「いつまでもこんなところにいるのはもったいないし、きみたちの未来はもう、あの小さなライブハウスにはないんだぜ」
それは、頭の片隅ではほのかにわかっていたことだった。
東京に行く。
東京で音楽をやる。
俺たちにはそのチャンスがある。
そう、たぶんそれは、俺たち4人ともがもうすでに、なんとなく知っていたことだ。
「もしそのつもりがあるなら、おれも真二も全力でサポートするよ」
関谷さんは長年の友人のポケットから勝手に煙草を引っぱり出すと、おもむろに口にくわえ、いっしょに強奪したジッポで先端に火をつけた。
「誤解を招く前に言っておくが、きみたちはべつにエリートじゃない。特別な存在というわけでもない。そこは驕らないでほしい。でも、だからおれたちの力が必要なんだ、と言ってるわけでもないし、そこは逆に卑屈にもならないでほしい。
ただ単に、きみたちはほかのバンドマンがめぐり会いたくともはめぐり会えないような、強固な“縁”を持ってるんだ。真二とおれを使う、その権利がある。使うか使わないかは、きみたち次第として」



