「ほんとさ、いいかげん慣れろよ。そういう季沙が好きだからしょうがないって受け入れるしかないだろ。というかもうつきあってるならそういう心配もいらないと思うけど、俺は」
べつに俺としても、心の底から本気で腹を立てているというわけではない。
トシに対していまさらなにかしらの心配事があるわけでもない。
こんなのはただの嫉妬だ。
単に俺が、季沙がトシをかっこいいと言うのをおもしろくないと思うだけ。
「そんなんでこれから大丈夫なのか?」
何気なく言ったであろうベーシストの言葉を、俺の耳は受け付けないで流した。
最年長の高校卒業を機に話があるから集まってこい、とのお達しがあったのは、最年少が中学の卒業証書を受け取ってきたすぐ翌日のことだった。
収集をかけてきたのはここらのバンドマンを一括で取りまとめている、俺らなんかでは絶対に頭の上がらない人だ。
季沙はワキさんのことをたまに“ボス”と呼ぶ。
「おー、時間通りに全員集まってるなんてえらいえらい」
そのボスが運営する楽器屋の端っこ、いつか兄弟が大喧嘩を繰り広げたギター売り場で4人かたまってしゃべっていたところに、軽快な声は突然落っこちてきた。
「お久しぶりだな、少年たち」
年下の同性に対し、少年、という独特な呼び方を使う変わり者を、俺は関谷マコト以外に知らない。
ポケットのなかの財布とスマホ、それ以外いつもなにも持っていない日本トップクラスのミュージシャンは、きょうも新幹線に乗ってわざわざ東京からやって来たと言うのだった。



