「俺のなにが嫌い?」
取り乱すわたしとは裏腹に、こうちゃんは恐ろしいほど淡々としていた。
まっすぐ見つめてくる瞳はこれまでのどの瞬間よりも強くて、真剣で、思わず目を逸らしたくなる。
「だめ、季沙、こっちむいて」
「や……」
「俺のなにが嫌い?」
あのね、こうちゃん。
ぜんぶ、大好き。
「……お風呂上がり、に」
「うん」
「ドライヤーめんどくさがるのもヤだし、平気でごはん抜いちゃうのもヤだし、パッと起きないのも、寝ぼけてぎゅっとしてくるのも苦しくてヤだし、こうちゃんが……こうちゃんが、どんどん有名になって」
ああ、嗚咽がこみあげてぜんぜん上手にしゃべれない。
もしかしてわたし、泣いているのかな。
きっとみっともないくらい泣いているんだろうな。
視界がびしゃびしゃで、こうちゃんの顔がぼやけている。
「ほかの女の子に人気になるのもヤだし、はなちゃんと、わたし以外の女の子と仲良くしてるの……やだ、わたしのこうちゃんなのにやだ、きらい……大好き、ぜんぶ、こうちゃん……大好きなの、ごめんなさい」
なにを口走っているのか、自分でもよくわからない。
もはや最後のほうはほとんど、言葉にすらなっていなかったと思う。
それでもこうちゃんの両腕は、わたしをまるごと受け入れてくれた。
抱きしめてくれた。
これまででいちばん、やさしくて、強くて、あったかくて、切ない、ぎゅう。
「俺も」
そしてこうちゃんはシンプルに、とても小さなボリュームで、3文字だけをわたしの右耳に直接落としたのだった。



