「季沙、帰ろう」
「え、ちょっと、こうちゃん……っ」
急に、どうしたの。
なんなの。
もうわたしにはついていけないって言ったじゃん。
ずっと連絡なんかくれなかったじゃん。
廊下ですれ違っても目すら合わなかったじゃん。
はなちゃんと、いっしょに帰るんじゃないの?
「こうちゃん、やだっ」
本当の本当に久しぶりに入るこうちゃんの部屋。
モノクロのベッド。もちもちクッション。無機質なデジタル時計。誕生日にあげたデジタルフォトフレーム。エレ吉くん、ギー子さん、ギタ美ちゃん、アコちゃん。
それから――わたしがクリスマスプレゼントにあげた、グレーのマフラー。
「なにが嫌なのか言って」
「や……」
「季沙、言って。嫌なこと、思ってること、全部俺に教えて」
「やだ、こうちゃんなんかきらい」
これじゃ同じことのくり返しだ。
次に会ったらちゃんとぜんぶ話して、ごめんねって目を見て謝って、元通りになるはずだったのに。
だって、こうちゃんが悪いんだよ。
まだ心の整理もついていないのに、こんなふうに強引にするから。
「嫌いでもいいから言って」
「……なんで、あんなこと言うの?」
「なに?」
「『触らないで、触らせないで』って、べつにわたしはこうちゃんの所有物じゃないのに」
「うん、ごめん」
どうして謝るわけ。
「こうちゃんだってはなちゃんといっしょに帰ったりするくせに」
「ごめん」
だから、どうして謝るの。
「こうちゃんなんかきらい……」
ああ、ダメだな。
ほんとは反対のことが言いたいのに。
大好きだよって、言いたいのに。
うまくいかないよ。



