グッバイ・メロディー



「なんかあった?」


明らかに様子がおかしいのは自分でも重々承知なので、こうちゃんが見せた怪訝そうな顔にどうにもうろたえてしまった。


「な、なんにもない、けど」

「うそ。さっきからなんかおかしい」

「おかしくないよ……?」

「なんか怒ってる?」

「ううん……ちがう、怒ってない」


これ以上いっしょにいたら、このまま近づいて顔を覗きこまれたら、そっと触れられたら、ぎゅっとされたら、たぶんもう、我慢できなくて爆発する。


「……ごめん、こうちゃん、きょうは帰ってもいいかな」

「季沙」

「ごめん」


だけどこうちゃんはそう簡単に逃がしてなどくれない。


ドアノブにかけた右手。

それをすっぽり包みこむ、こうちゃんの大きな右手。


「なんかあるならちゃんと言って」

「こ、こうちゃん……」

「季沙、教えて」


わたしはどこまでも救いようのないおばかさんだな。

こうちゃんは昔からなんにも変わっていないなんて、そんなのぜんぜん違うのに。


耳元で響いている低くこもる声も、
うんと高くなってしまった背も。

ぜんぶぜんぶ、こうちゃんが男の子だっていう、たしかな証なのに。


ずっと見ないようにしていただけ。

こうちゃんはこんなにも、男の子……なんだ。