「うん……あのね、ぜんぜんさみしくないって言ったら嘘だと思う。夏祭りのことでそれはちゃんと自覚したの」
幼いころからふたりでずっといっしょに育ててきた世界。
その外側に、こうちゃんは別の世界を作ってしまった。
だけど、こうちゃんは、そこにわたしを連れていってくれる。
見たことのない景色を教えてくれる。
こうちゃんの大切なものを、わたしもいっしょに大切にさせてくれる。
こうちゃんはちっちゃいころからなんにも変わってない。
――ほんとう、に?
窓のむこうに見えた渡り廊下で、よく知っている男の子が、ぜんぜん知らない女の子と話しているのが見えた。
見えて、しまった。
「たぶん瀬名くんは、季沙が思ってるよりずっと遠い場所に行けちゃう人だよ」
人見知りで、無口で、基本的に心を閉ざしているこうちゃんは、昔からあまり人としゃべったりするのが得意ではなくて。
疲れていたり、眠かったりして、ひどいときだと、話しかけられても最悪シカトしてしまうこともあって。
直さないとダメだよ、と何回も言ってきた。
笑わなくてもいいからせめて顔を上げて返事しよう、無視されたら悲しいよって。
いつからこうちゃんは、あんなにも優しい目をむけて、誰かと話すことができるようになってしまったんだろう?
「はなちゃん、行こ。生物室遠いから急がないとっ」
渡り廊下のこうちゃんがこっちに気づいたのと同時に、思わず目を逸らした。
こんなのはじめて。
きのうまでは笑って手を振れていたはずなのに、おかしいな、どうしちゃったの、最低だよ。



