「は、は、は、はなちゃん、いまのはいったい……」
「わたしああいうのほんと無理なの! せめて下心くらい隠してから話しかけてこいって感じ」
「ええっ。下心とは……?」
わたしにはそんなものは1ミリも見えなかった、のだけど。
「むしろこうちゃんを応援してくれて……」
「あのね、そうやってぼけっとしてるとね、ほんとに瀬名くん、どこの誰かもわかんないような女に持ってかれちゃうんだからね」
ジョークみたいに受け流すつもりだったのに、はなちゃんがあんまり真剣な目をして言うからぜんぜん笑えなかった。
「瀬名くんだって“バンドマン”だよ。その気になれば女なんか選びたい放題!」
女の子を選びたい放題しているこうちゃんって、どうにも想像つかなくてぴんとこない。
だからあいまいにうなずくと、はなちゃんがじれったそうに頭を振った。
「季沙は、感じない? 瀬名くんも、瀬名くんの周りも、どんどん変わっていってること」
2学期が始まってからのこの数週間で、そんなのは嫌というほど思い知った。
「うん、感じる……」
「でしょう? いまの瀬名くんは、中2のとき同じクラスで授業を受けてたあのコとはぜんぜん違うんだなって思う。だってあのころの瀬名くんには、季沙と夏祭りに行くよりも優先したいことなんて絶対になかった」
こうちゃんのドタキャンを、いまとなってはわたしよりはなちゃんのほうが怒ってくれている。
こんなことなら自分も彼氏と約束なんかしなければよかった、とまで言ってくれる。
こうちゃんはもうかわいそうになるくらい謝ってくれたから、全部いいよと言って、仲直りまでちゃんとした。
わたしが勝手にすねていただけだから、“仲直り”とはちょっと違うのだけど。



