「世界にこんな奇跡がふつうに転がってるなんて知らなかった」
こうちゃんが鳴らす、特別なギターのむこうに。
みんながくれる、魔法みたいな音楽のむこうに。
わたしが知っているよりもずっと広い景色が、追いつけないほど遥か彼方まで、もしかしたら広がっているのかもしれない。
この小さなステージが、もしかしたら、地平線までずっと続いているのかもしれない。
4人はいま、そのむこう側に出かけていこうとしているんだ。
むこう側で4人を待っている人たちが、きっといるんだ。
「じゃ、次の曲で最後になります」
ぐねぐね暴れたままのコードを直すためにマイクを一度優しく振り上げると、アキくんがこれまでよりほんの少し低い温度感でそう言った。
えー、とあちこちから不満げな声。
えー、とボーカルから、笑いながらまったく同じ返事。
アキくんは小さく笑いながらステージ上手にむかうと、こうちゃんの肩に手をまわした。
ギタリストはそれを無視して、むしろちょっとわずらわしそうに、顔をふいっと背ける。
アキくんが近くにいると自分まで注目を浴びてしまうからきっと嫌なんだ。
こんなにたくさんの人が見に来てくれているというのに、こうちゃんはたぶん、自分の部屋でギターを触っているときの気持ちのままでステージに立っている。



