いつのまにかうんと大きくなってしまった背中。
それなのに、こんなに甘えんぼうで、ちょっと不器用で。
自分の気持ちを誰かにぶつけるのが、こうちゃんはいつまでたっても上手にならないね。
「やめてもいいって思ってるかもしれないけど、やめてほしくないとも思ってるでしょう?」
鎖骨のあたりに押しつけられているオデコが、擦れるみたいに小さく縦に動く。
「じゃあそれを伝えようよ。やめてもいいってふたつ返事で言われちゃったら、きっとさみしいよ。悲しくて、切ないよ」
引き止めたところでトシくんは留まってはくれないかもしれない。
きっと、感情的な選択はしない人だ。
様々なことを天秤にかけた上で、いつだって完璧に“正しい”ほうだけを選んでいける、あまりに聡明な人だ。
それでも、わたしは決して、あまいたまごやきを“正しくない”ほうだとは思わない。
世界中からなんと言われようと、わたしだけはぜったい、そんなふうに思わない。
「季沙、泣き虫」
涙の貯蓄って人間ひとりにつきどれくらいあるのかな。
またもやどばどば涙を落とすわたしの顔を見て、こうちゃんがふっと笑った。
「誰のせいだと思ってるの」
「俺のせいじゃないとやだ」
「なにそれ?」
「季沙に、俺以外の誰のためにも泣いてほしくない」
まさか、こんなときにもわがままボーイが顔を出してしまうわけ?



