「わかった」
こうちゃんはほかの誰にでもなく、トシくんにむけてただ一言、そう告げた。
アキくんが信じられないという表情を浮かべる。
今度はトシくんだけでなく、こうちゃんのことも責めるような目をしてにらみつけた。
「なんで、簡単にそんなことが言えるんだよ?」
いままでに一度だって聞いたことのないような、怒りに震えているアキくんの声はぜんぜんキラキラしていない。
ヒロくんはなにも言わず、眉間をぐっと寄せ、かわいらしい顔の真ん中に深い皺を刻んでいた。
「アキ、ごめん」
トシくんの小さな声が静まりかえった部屋にぽとんと落ちる。
「おまえはもう、バンドなんかどうでもいいのかよ?」
「そういうわけじゃない」
「じゃあどういうわけだってんだよ!」
テーブルに拳を打ちつけた衝撃で、クーラーのリモコンがフローリングに落下した。
転がったそれを一瞥し、アキくんがじれったそうに舌打ちをする。
「納得いくわけねえだろ。なんでここにきていきなり『バンド辞めて医者になります』なんだよ。おかしいだろ?」
「それは本当に悪いと思って……」
「思ってねえだろうが! 曲作って、ライブして、CDにしてもらって、さあこれからってときだろ? それともやっぱり安定した職に就きたいって、いまさら思い直したのかよ!」
烈火のような怒りのむこう側からじかに伝わってくる、アキくんの痛いくらいの想い。
あまいたまごやきが大好きなんだという、まっすぐな気持ち。
めずらしく、いつも憎まれ口ばかりの弟が、兄をなだめるようにそっと腕を引いた。
その彼もとても苦しい、悲痛な顔を浮かべていた。



