「医者に、なりたいのかよ?」
いまにも噛みつきそうな目で話を聞いていたアキくんが、トシくんがしゃべり終えるのを確認してから、どこか恐る恐る訊ねた。
イエスという答えなら返事など必要ないという表情だ。
それがこんなにも伝わってくるというのに、トシくんはとうとう、首を縦に一度だけ動かしたのだった。
「なりたい……と、思ってる。じいさんが開いて、父さんが守ってきた病院を、俺が潰すわけにはいかない」
瞬間、アキくんが本当に怒った顔をした。
ヒロくんがめずらしくショックを受けたように、瞳を大きく揺らした。
「……ざっ、けんな!」
いつもからからと笑ってその場をぱっと明るくしてくれるムードメーカーが、こんなふうに声を荒げると、すごく怖いんだね。
こんなふうに切羽詰まっている顔をすると、すごく、切ないんだね。
無意識のうちにこうちゃんの右腕にしがみついていた。
やっぱりわたしなんて、この場にいてもなんの意味もないな。
なんにもできない。
なんにも言えないや。
「アキ、大声出すのやめて」
立ち上がりかけたアキくんを制止するように、こうちゃんがいつもより少しだけ厳しい声を出す。
「けどっ……」
「いいから座って。季沙が怖がってる」
はっとしたようにわたしに視線を移したアキくんが、ワリィとつぶやいて腰を下ろした。
ぶんぶんとかぶりを振る。
アキくんが怖くて、こうちゃんにぎゅっとしているわけじゃないの。
ただ、自分の無力さがとても悲しかった。
目の前で起こっていることをどうにもできないのが、あまりに歯がゆかった。



