いつのまにか涙でビショビショになってしまったひどい顔を、黒いプルオーバーの袖がガシガシ拭いてくれる。
みんなが帰ったらすぐに洗濯しないと変なシミになっちゃうな。
だけどこうちゃんは、そんなことなどいっさい気にもしていないもよう。
新しく仲間にくわわったアコギも連れてテーブルに戻ると、トシくんがそれを、指先だけで軽く撫でた。
「いい親御さんなんだな」
目を細めてそう言った顔、いままでにないくらいすごく優しくて、胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなる。
どうして?
「あんなふうに寄り添って、手放しで応援してくれるなんて羨ましいよ。大切にしないとな」
そんなことを、この世の全部を手にして生まれてきたように見えるトシくんが、心の底から噛みしめているみたいに言うの。
彼のご家族はどんな人なんだろうとやっぱり想像せずにいられないよ。
こうちゃんは、トシくんの顔をじっと見て、なにか言いたげにくちびるを少しだけ動かしたけど、結局なんにも言わなかった。
こうちゃんはあまり他人にずけずけと踏み入ろうとしないね。
それは、自分がそうされるのをとても嫌がるからなんだろう。
「大切に思ってる」
かわりにそう言った。
「季沙も、季沙の家族も」
また涙が出ちゃうからやめてほしいな。
「アキも、ヒロも、トシも」
もう、ほんとに、泣けてきちゃうじゃん。
「きょう……あ、きのう? ありがとう、楽しかった」
最後にそう言ったこうちゃんの黒いプルオーバーの袖、今度は左手のほうがわたしの目元に触れて、優しい圧力で涙の粒を吸い取ってくれる。
こんな姿をしっかりばっちりトシくんに見られてしまって恥ずかしい。
「なあ。俺さ、洸介ほど愛情深いやつってそうそういないと思うよ」
ひとりごとみたいにつぶやいたその言葉を聞いて、こうちゃんは一瞬だけ視線を上げたけど、よくわからなさそうにうなずいただけでなにも答えなかった。



