「でもトシくんなら行きたい大学どこにだって行けちゃうよね」
本当に、なんとなしに、思ったことを言っただけだった。
だけどいつでも冷静沈着にして穏やかなお兄さんが、あからさまにうろたえたので、なにかマズイことでも言ってしまったのかと焦る。
ふと、こうちゃんが静かにマグカップを置いた。
いつもぼんやりしている目が、いまはまっすぐにベーシストを見つめている。
「進学する?」
こうちゃんはいたってシンプルな質問を、同じくシンプルにぶつけた。
そこで、やっと、はっとした。
こうちゃんたちは、あまいたまごやきは、きっともう“ふつうの学生”ではない。
そう。
トシくんはすでにいま、“ふつうの受験生”じゃないんだ。
「一応、しようかなとは、思ってる」
聡明で語彙の豊富な彼にしてはめずらしい、言葉を切って選ぶようなしゃべり方に、たしかに存在している迷いみたいなものを感じた。



