グッバイ・メロディー



「だからいますっごく楽しくて。みなさんを追いかけるのが“疑似片想い”してるみたいで新鮮なんです。こんな感覚はじめて!」


アキくんと知り合って、彼がバンドを始めたというので興味本位で見に来てみたら、もうドハマりしちゃったらしい。

それから毎回対バンに来て、出演するバンドはどれも見たけど、エミリちゃんはずっとあまいたまごやきがいちばん好きなのだと言ってくれた。


同年代の男の子がこんなにかっこいいなんて、
という言葉には全力で同意してしまった。


「ちなみに“推し”は俊明さんですっ」


その発言にはズッコケそうになったけど。

たぶん、ほんとにちょっとズッコケたと思う。


「えーっ、まさかのトシくんなの……!?」


てっきりエミリちゃんが“疑似片想い”している相手はアキくんだと思っていた。


勢いあまってそう言ったら、アッキーくんは本当に素敵ですよね、と社交辞令みたいな返事。

本人が聞いたらメチャクチャすねそうな発言だ。


「彼の良さがわかるとは、なかなか渋い趣味してるねえ」


みちるちゃんはトシくんについてそう茶化したあとで、


「じゃあその紙袋はトシくんへのバレンタインかなんか?」


と、雪のように真っ白な手元へ視線を落とした。

エミリちゃんがあせあせしながら小刻みにうなずく。


「そうです! みなさんにチョコと、俊明さんには気持ちばかりですけどプレゼントも。CD買うついでに渡せたらなあって思って持ってきちゃいました。迷惑になりませんか?」

「えーいいじゃん! せっかくだし渡しにいこうよ」


みちるちゃんの言葉に同意しつつ、お嬢様の買うチョコってどんなだろうと紙袋をよく見てみたら、誰もが知る超高級ブランド『ブルゴリ』の印字がされていたので、目ん玉が吹っ飛ぶかと思った。


ブルゴリってチョコもあるんだ。

それともバレンタイン限定の?


どちらにせよ、わたしには想像もつかないようなお味をしているに違いない。

こんなの食べちゃったら、甘党大魔神のこうちゃんなんかはひょっとしたら天に召されてしまうかもしれない。