「言わなきゃ何も始まらないんだよ?」

 唇を尖らせた比奈子は、いーもんいーもんって口の中で言いながら立ち上がった。

 何がいーもんなのか、私にはぜんぜんわからなかったんだけど。

「私、もう帰るね。今日バイトなんだ」

 部活に入らない代わりに、比奈子はアルバイトをしている。私は完全な帰宅部だ。

「ねえ、四日の日、うちでお昼ご飯食べるって忘れてない?」
「大丈夫大丈夫」

 比奈子は鞄を取り上げると、ぶんぶんと手を振る。

 比奈子とは、もうすぐ始まる試験勉強を一緒にする約束だ。

 たぶん、私が比奈子に教えてもらう方が多いんだろうけど。

 その時の私は、のんきにそんなことを思っていた。