「あなた方はメモリーズキューブの力を過信しているのでは? この際はっきりと言いますが、ロックキューブのほうが力は強い。これは事実です」

 閉じこめた結界を早く破れたのは、結界を作ったワタシとの距離が離れていたからです。
 そう言って治臣は脇差しをキューブに戻し、刀だけを持ってさらに言葉を続ける。

「しかし、ワタシ一人で全員をお相手したいところですがさすがに骨が折れます。――今夜はこれで退きましょう。ですが、ワタシが他人を強制移動させたり結界に閉じこめたり出来ることを今後はお忘れなく」

 それに、と言いかけて治臣は優希を真っ直ぐ見つめる。
 優希が緊張しながら彼を見つめ返すと治臣はふっとおかしそうに笑った。
 緊張状態にありながら突然笑う相手に優希が首を傾げると、治臣は声をあげて笑い出す。

「――っ、すみません。彼女があまりにも真っ直ぐ見返すものでつい。千夏に似ているとばかり思っていましたが、むしろワタシ達に似ているのかもしれませんね」

「――ああ。それはオレも思った」

 睨み合っていたはずの紅夜までもが微かに笑い、優希は双子と共に首を傾げてしまう。
 笑みを引っこめた治臣は再度優希を見て言葉を続けるべく口を開く。

「その真っ直ぐさがいつか消えてしまう前に、ワタシがあなたのキューブを破壊して差し上げます」

 これから覚悟して下さい。
 そう言った後に治臣は紅夜に視線を送った。

「紅夜、あなたが望むならあなたのキューブも壊してあげますよ」

「――必要ない」

 どうです? と不敵に笑うかつての幼なじみに、紅夜は間髪を入れずに拒絶する。
 少しの間見つめ合い、互いの瞳が揺れていることに気づきながらも二人はそれでも手を取り合うことはしない。
 意見が分かれたその日からずっと。

「残念です。いつか後悔しても知りませんよ?」

「自分で選んだ道だ。後悔することや迷うこともあるだろう。それでも、オレは――オレ達は人の思い出を守りたいと思っている」