いつもはもう少し不鮮明で会話も途切れ途切れに聞いていた。
 それが今この時、映像が鮮明で会話もはっきり聞こえた優希は思わず声に出してしまった。
 しまったと思うも時すでに遅く、優希が歩みを止めていたのはわずかだが相手も訝しむように立ち止まっていた。
 彼の目が大きく開かれ、優希が謝って去ろうとする間もなく肩を強くつかまれる。
 つかまれたことにより二つの傘は音をたてて落ち雨にさらされて。
 相手は自分が濡れるのも構わず両手で優希の肩をつかんで揺さぶって来た。

「オレの記憶が見えるのか……?」

「あ、ご、ごめんなさい……!」

(どうしよう! 気味悪がられちゃうよ……!)

 不思議な光景を夢に見るようになってから、優希は人の一部分の記憶が映像として見えるようになっていた。
 父に知らせると他の人に言ってはいけないと念をおされ、幼い頃は何故だろうと思っていた。
 しかし、成長するにつれてその現象が異端だと知り、決して誰にも言っていない。

「ごめんなさい! ごめんなさい……!」

「頼むから教えてくれ! オレの思い出が見えたのか?」

 怯えた顔でひたすら謝る優希に紅夜もまた必死だった。
 長い髪が雨に濡れて顔に張りつくのも構わず、必死に彼女に問いかける。
 濡れていくスーツが冷たいはずなのに、紅夜は体が熱くなっているような気がした。
 後ろで息を飲む仲間の様子を感じながらも彼は優希に言い寄ることを止めない。

「謝らなくていい。オレ達に力を貸してくれないか――」

「え……?」

 混乱する優希に紅夜は真っ直ぐな視線を向けた。
 この時繋がった縁により、優希は自分の知らなかった世界へと足を踏み入れることになる――……。