「父さん!?」
「最近じゃ、昼も無理して入って貰ってるしね」
「……あ、そうだ、その事で歩ちゃんに相談があるんだけど」
「?」
「結局昼の子ダメになっちゃったから、次の子が決まるまで当分昼に入ってくれないかな?」
「えーっと、昼に入るのは問題ないんですが、いかんせん稼ぎが……」

 アルバイトのシフトを担当している慎吾さんにそう言われるも、昼と夜だと時給が全然違う。必然的に私の生活が厳しくなるのは当然だ。
 ここははっきり断ろうと慎吾さんに向かって口を開きかけた時、それを聞いた店長が先に口を開いた。

「ああ、そうか。なら、時給は深夜の時給のままでいいよ。その代わり他の人には内緒にしといてね」
「店長……。やります! 喜んで昼勤務やらせて頂きます!」

 時給が深夜勤務のままなら何も文句は無い。

「じゃあ頼むよ。早速で悪いが明日から? でいいんだな? 慎吾」
「あ、うん。歩ちゃんが問題無ければー、だけど」
「大丈夫です!」
「ほいきた。じゃあ今日はもう上がっていいよ」
「え? 本当にいいんですか」

 うんうんと頷く慎吾さんと店長に勢い良く頭を下げると、そのまま小田桐を無視して帰り支度を始めた。
 働かなければお金にならないとは思いつつも、数時間で帰れるのはすこぶる嬉しい。これもきっとスライムが頭にくっついてしまったお陰だな、と思ってすぐにまた落ち込んだ。

「これ、どうしよう……」

 ネトネトする髪を気にしながら裏口の扉を開けると、薄暗闇の中で一人たたずんでいた小田桐がこっちへと振り向いた。

「何してんの?」
「お前、その頭どうする気?」
「ああー」

 そんな事をわざわざ聞くためにここで待ってたのかと思うと、本気で小田桐はストーカーの気があるのではないのかと疑ってしまう。まぁ、でもこんなに早く帰れるのも昼勤務でも深夜の時給が貰えるのも、店長が小田桐にいい所を見せたかったからこそかも知れない。

「うーん、まぁ家帰って切るかな」
「はぁ。お前ってほんっと救いようのない馬鹿だな」

 ――また、言われた。
 さっきは何故か心地よいと思ってしまったが、今回の馬鹿はなんだかムッと来た。

「うるさいなぁ、小田桐には何の関係も――」
「来い」
「は? あ、ちょっと」

 そう言うや否や私の手首を引っ掴み、小田桐はどんどん歩き出す。その時一瞬、ドキンッと胸が大きく跳ねると共に、私は酷く動揺した。

「一体、何処に!?」
「俺んち」
「はぁっ!? 何で私が小田桐んちに行かなきゃなんないの?」

 腕を引っ張られながら、その後何度も小田桐に理由を問いかけても、黙ってついてくりゃわかるの一点張り。手首を握る小田桐の大きな手を振り解こうと思えば出来るはずなのに、その時の私はそうする事は出来なかった。