「ああ゛? 何だコレ?」
「だから、スライム……」
「何だか知らんが、ちょっとやそっとじゃ落ちないだろ。お前まさかこれを取るために髪の毛ごと切るつもりだったのか?」
「そうだけど」
「馬鹿か」
「いたっ!」

 拍子抜けしたかのような表情を浮かべたと思ったら、パコンッと頭に平手が飛んだ。
 再会してからというもの、何度小田桐に馬鹿呼ばわりされただろうか。今までは言われるたびにカーッと頭に血が上って必死になって言い返していたのに、今は何故かそう言われる事が心地よいとさえ思える。鋏を手にした私を彼はきっと、自らの手で自身を傷つけようとしているのだと咄嗟に思ってしまったのだろうが、普通に考えればわざわざ自分の職場であるコンビニのレジでそんな行為に及ぶ人なんて居ないだろう。私の過去を知っている彼は私ならやりかねないとでも思ったに違いない。小田桐の早とちりとはいえ、彼は私を心配して止めてくれたのかもと思うと、いつもは腹正しく思っていた馬鹿と言う言葉が、ほんの少し嬉しくも感じた。

 ――嬉しい? 何で?
 今の今まで顔も見たくないと思っていた相手に対して、何故急にそんな感情が芽生えてきたのだろう。いや、わからない振りをしているだけで、私はきっと確信している筈だ。偉そうな言動の中にたまに混じる、私を気に掛けてくれているかのような言葉の数々に絆されそうになっているのだ。

「――」

 今、自身が抱いている感情に戸惑いながら、私は小田桐が触れた頭をそっと撫でつけた。