「ああ、落し物ね。じゃあ、名前や住所を教えてもらえる?」

警察官は、ボールペンを取りだした。
届けたらすぐに帰れると思っていた勇吾は、仕方なく手で示されたパイプイスに腰掛ける。

名前と住所を記入していると、交番前に黒い外車が1台停車した。

そこから白髪頭の年配男性が、颯爽と降りてくる。しわひとつない見るからに高級そうなスーツをまとっていた。
さらに、その一歩後に、メガネをかけた男を連れて、交番へ入ってくる。

「失礼、腕時計の落し物はありませんでしたか?」

白髪頭の男性は、渋い声でそう尋ねる。

「はあ、これしか届いていませんが……」

白髪頭の男性の、重圧感に圧倒されながら、警察官がボロボロの腕時計を指さす。

すると、白髪頭の男性が、目を見開いた。

「これだ! これです! これは私が落とした時計です」

先ほどとは打って変わった興奮した口調だったので、勇吾は呆気にとられた。


「そうでしたか。たった今、この少年が届けてくれたんですよ」

警察官に紹介され、勇吾は小さく会釈をした。