これからは、学校でも少しずつ、話せたらいいなと考えていた勇吾は、電信柱の下に、なにか落ちているのを発見した。

ぼんやりと、街灯に照らされたそれは、腕時計だった。

辺りを見回したが、人の気配はなく、勇吾は腕時計を拾いあげた。

黒いベルトはボロボロに破けてしまっている。
さらに時計の文字盤も傷だらけで、壊れたから捨ててしまったのかと思った。

そのまま戻そうかと思った勇吾だったが、ふと父との思い出がよみがえってきた。

父と散歩をしていると、50円玉を見つけた勇吾は、「ラッキー」とポケットに入れようとした。すると、父が諭すように言ってきた。

「勇吾が今しようとしたことは、間違っている。人の持ち物を、たかがこれくらいと思ってはいけない。落とした人は、とても困っているかもしれないんだぞ」

父に手をひかれ、50円玉は交番に届けた。

勇吾は、そんなことを思い出しながら、ボロボロの腕時計をまじまじと見た。

確か、この近くに交番があったはずだ。勇吾は、コンビニに行くのをやめて、交番へ向かった。

交番へついた勇吾は、机に向かっていた警察官に、「あの、これ落ちていました」と腕時計を差し出した。