【ねがいはききいれました。わたくしはてんへとかえります】

「石森さん、ほらっ、お礼お礼!」

光子に急かされ、杏奈は、「ありがとうございます」と頭を下げた。

すると、10円玉が、急速に冷めていく。

「マリア様はお帰りになったようね。もう指を離しても大丈夫よ」

光子が、優しく言い、肩に手を置いてきた。

杏奈は、フーッと大きく息をつく。
こめかみから、汗が一筋流れ落ちた。
10円玉から、離した指先を見ると、痛みはないが、少し赤くなっていた。

「これで、願いごとは、叶う……んだよね?」

イマイチ実感がわいてこず、そう言ってしまった。

「世界が変わるのは、もうすぐよ」

光子が、マリア様の紙を丁寧に折りたたむ。最後に、手でアイロンをかけるように、2、3度なでつけていた。

世界が変わる……か。本当かな。

杏奈は指先で汗をぬぐい、夕日がしずみ、暗くなりつつある教室を見ていた。