その女子は、口元に艶っぽい微笑を浮かべ、光子の席に座った。

「誰、あの人?」
「転校生じゃないの」
「こんな時期に?」

あちこちから、そんな会話が聞こえてくる。

後ろの席の詩織は、一花とのおしゃべりをやめ、突然現れた女子を凝視していた。

すると、蓮希が、「ちょっと話してくる!」と好奇心に顔を輝かせながら、謎の女子の前に立った。

「君、転校生? そこ一応、汚デブちゃんの席なんだよね〜」

蓮希が、へらへらと話しかける。
ふっ、と女子が微かに笑う。

「あら、おはよう。武藤くん」

「うん、おはよう……って、なんでおれの名前知ってんの⁉︎」

蓮希が、自分を指差しながら、目を丸くしている。

その時、後ろの席の詩織が、はっとしたような顔をした。

「もしかして、その声……まさか山根光子⁉︎」

「まっさかぁ〜ないない」と蓮希が、笑い飛ばす。
それを打ち消すように、女子がゆっくりと言った。

「ええ、そう。私、山根光子よ」

教室中に、どよめきが起きる。
杏奈はおどろきのあまり、携帯電話を床に落としてしまったほどだ。