光子の姿を見た春山が、小さく安堵のため息をつく。杏奈も、ほっとしていた。

「山根、早く出ろ。ここは立ち入り禁止だぞ」

春山に言われた光子は、慌ててロープをまたいで、外へ出た。

土で汚れた体操服を着た光子を、春山が訝しげな表情で見つめる。

「武藤は山根が腹痛で、このトイレへ入ったと話していたが、それは本当か? それにその土はどうしたんだ?」

とうとう、ウソといじめたことが、発覚してしまう。
あちゃー、という顔をして、蓮希が片目を閉じる。
詩織は、今にも足元から崩れ落ちそうだ。
一花だけが、取り乱すことなく、無表情で立っていた。別にばれようが、どうなろうが構わないといった風に、杏奈には見えた。

「……そうです。急にお腹が痛くなってしまって。土は……自分で転んでしまったので、その時についたんだと思います」

光子が、たどたどしい口調で答える。

えっ⁉︎ と真実を知っている杏奈たちは、おどろいた。

どうして、蓮希のウソに、話を合わせたりするのだろうか。おまけに、転んだと理由を偽ってまで。