杏奈は、じっとしていられなかった。

ポケットから、マリア様の紙を取り出し、コンクリートの地面に広げる。

10円玉なんか持ってきていないので、ワンピースのボタンをひとつ、ひきちぎり、中央の羽に設置して、人差し指を置いた。

「マリア様、マリア様……どうかおいでください……。もう許してください、私たちをどうか助けてください!」

杏奈は心の底から、救いを求める叫び声をあげた。

「杏奈、なにをしてるんだ! そんなことしたって、助けてくれるわけないだろう!」

勇吾の言葉は、もっともだったが、杏奈は最後の望みにすがるしかなかった。

「だって、このままじゃ、みんな殺されちゃうよ!」

杏奈は、むせび泣く。

「マリア様、マリア様、お願いします。なんでもするから、どうか助けてください――」

こんなことをしても意味がないことは、杏奈自身が1番よくわかっていた。
それでも、ただドアが破壊され、食い殺されるのを待つことはできなかった。

すると、一花がひざをつき、ボタンに人差し指をそっと置いてきた。

「マリア様が偽物の神様だろうがなんでもいい。死ぬ前に告白したいことがある……。
私は……人を殺した……」