「でも……どうして、私たちを助けてくれたの? あのままだと水谷さんが生き残って、最後のひとりになれたのに……」

杏奈が問いかけると、一花が、前歯で下唇を噛みしめた。血がにじみでている。

「もう誰も私のせいで、死んで欲しくなかったから……」

一花は、それだけ言うと、うつむいてしまった。

杏奈には意味がわからなかったが、「一花……」と勇吾は、言葉をつまらせていた。

しかし、屋上に逃げ込んだものの、ここから逃げ場所はない。ある意味、密室だ。
絶望的な状況に杏奈が頭を悩ませていると、

「オオオオオオオ――」

吐き気のするような光子の獣のような叫び声がした。
おまけに、どんどん近付いてきている。

「ヤバイ、あいつらが来たぞ!」

勇吾は、ドアの方へと向きなおし、ドアノブを握りしめ、がっちりとガードした。

ガンガンッ、ガンガンガンッ、とドアが乱暴に叩かれ、激しく揺れた。
本当は、すぐにでもドアを壊せる力を持っているのだろうが、まるで杏奈たちが怯える反応を楽しんでいるように見えた。

「ぐぐ……」

勇吾は必死にドアをおさえている。
しかし、ドアが壊されるのも時間の問題だろう。