「もしもし、響太?」

詩織は、明るい声で電話に出た。

『あの……中沢詩織さんでしょうか?』

きこえてきたのが、女性の声だったので、詩織はおどろきながらも、「はい」と答えた。

『私は、響太の母です。響太は、今……緊急入院しています』

その言葉に、詩織の頭の中が真っ白になる。傘をおとしたことにも気付かず、雨に叩きつけられるようにして、立ちつくしていた。


30分後――。
詩織はタクシーを降りて、響太の母が教えてくれた総合病院前に到着した。

バスや電車で行く方向を調べる時間がもどかしくて、たまたま走っていたタクシーに飛び乗ったのだ。

総合病院の自動ドアをくぐる。
するとロビーにいた長身の女性が駆け寄ってきた。

「あなたが中沢詩織さんでしょうか?」

「そうです」詩織はうなずく。

「私が、響太の母です。突然呼び出したりしてごめんなさい。おどろいたでしょう」

響太の母は、化粧気がまったくなかったが、とても美人だった。
しかし疲れ切った顔をしている。