――窓ガラスに、無数の手形がついているではないか。
おまけに、どれも血に染まっている。

「ひいっ!」

後ずさりした一花の足首が、突然ぐっとなにかにつかまれた。

おどろいて足元を見た一花は、目を剥いて絶叫した。

――そこには、熟れすぎて崩れたトマトのように、ぐちゃぐちゃの血まみれになった胴体が、ひとつになってしまった直也と、まどかが、ダルマのように転がっていたのだ。
ふたりとも、肉塊から潰れた顔がのぞき出ている。そこから伸びたどちらかの手が、がっしりと一花の足首をつかんでいた。
生肉が、へばりついたような感触で、全身に鳥肌が立つ。

直也とまどかの目は、真っ黒で白目がなかった。
ぽっかりと開けた血の気のない唇からは、血が一筋流れおちている。
あうあう、と声にならない訴えを一花にしてきた。

「い、いやああああ!」

一花は、耳を押さえて、窓ガラスが揺れそうなほどの悲鳴をあげた。

まばたきをすると、おぞましい肉塊はあとかたもなく消え去っていた。
一花は、その場に座りこみ、ぜえぜえと発作のような息をする。

今のは、夢? それとも幻?

足首を見ると、くっきりと握りしめられた血の手形のあとが残っており、それが現実ということを物語っている。
一花は、しばし放心状態となっていた。