「――ちくしょう! なんで急に字が書けなくなったんだ!?
こんなおかしなことがあってたまるか……クソッタレ!」

伸二郎は、知りうる限りの怒りの言葉を次々と吐きだしていく。

その時、伸二郎の頭に、先ほど読んだメールが写真のように浮かびあがってきた。

黒い虫たちが一目散に逃げ出してしまうだろう、とメールには書かれていた。

まさか……黒い虫とは、頭の中に蓄積された文字のことではないだろうか。
それが逃げてしまったから、まったく字が書けなくなってしまった。

メールの内容との奇妙な一致に、伸二郎は唸り声をあげた。

いくら記憶力が完璧でも、字が書けないと、テストで満点どころか、自分の名前を書くことすらできない。

「ふざけやがって!」

伸二郎は、拳で思い切り壁を殴った。
拳の形にへこんでしまった壁を、伸二郎は、ぜえぜえと息をしてにらむように見ていた。