……しかし、右手がまるで麻痺したように、動かなかった。

伸二郎は、首をかしげて、もう1度、頭の中に教科書を思い浮かべる。
だが、いざ文字を書こうとすると、頭の中が真っ白になり、右手がまったく動かなくなってしまう。まるで頭の神経と、右手の神経が遮断されてしまったようだ。

そんな……書けない、文字が書けない……!?

「伸二郎くん?」

静かに動揺している伸二郎を、冴島がのぞこんできた。

「予定通りに進めたいから、この前みたいにパパッと解いちゃってよ」

冴島が、右手を素早く動かしながら、笑う。

伸二郎は引きつった笑みを、必死に浮かべて、プリントに何度も文字を書こうとしたが、やはりだめだった。

生ぬるい汗が毛穴中から、ふきだしてきて止まらない。

「伸二郎くん、もしかして体調が悪いんじゃないか?」

冴島が、心配そうにきいてきたので、伸二郎は小さくうなずいた。
実際、頭は大パニックでぶっ倒れてしまいそうだった。

「見るからに気分が悪そうだよ。今日は、もう早めに切りあげると、お母さんに伝えてくるから」

冴島が、いったん部屋を出ていくと、伸二郎は唇をかみしめて、頭をかきむしった。