伸二郎の成績がだんだん上向きになってきたので、両親の機嫌は良くなってきている。
このまま次の定期テストで満点を取り、特進クラスへ行き、有名大学へ進学してやる。そして、家族全員に自分の存在を認めさせてやる。それが、伸二郎の野望だった。

確か、今日は漢字のミニテストをすると言っていたので、その範囲がのっているページをあくびをしながら読む。
たったこれだけで、すべて頭の中に入ってくるのだから、笑いが止まらない。

夜の7時前に、家庭教師の冴島がやって来た。

冴島は現役の男子大学生だ。
地元では名の知れた大学に通っている冴島は、地味な顔に、垢ぬけない服装で、いかにも勉強しか取りえがないという悲しげな見た目をしている。
しかし、物の言い方が柔らかく、穏やかな性格で伸二郎は、まあまあ気にいっていた。
毎回、ミニテストの結果などを報告するのも、母に義務付けられて仕方なくやっているのだ。

「先生、お願いします」

母が、ニコニコと言い、ドアを閉めた。