前の席で参考書を読んでいた、大国伸二郎が、眉間にしわを寄せて、あからさまに迷惑そうな顔をしていた。

分厚いメガネをかけている伸二郎はいつも、参考書を手にしており、勉強熱心で、このクラスでは浮いた存在だった。
そんなに勉強が好きなら、特進クラスに行けばいいのに、と杏奈は常々疑問に思っている。

蓮希は教室の後方で、話していた勇吾と一花の間に割って入った。

「お前ら~おれも混ぜろ~」

プールに飛び込むような仕草を蓮希がしていたので、一花が声をあげて笑った。
そんな一花を勇吾は、優しい表情で見ている。

ああ……間違いない。
勇吾は、一花ちゃんのことが好きなんだ……。
杏奈は首が折れそうなほど、深くうなだれた。

一花は、女子とは群れなかったが、同じ中学だった蓮希とはよく会話をしていた。
勇吾と蓮希は仲が良く、その流れでよく3人でいることが多かった。
それから勇吾と一花が、恋人同士になったのだろう。

うあー、泣きたいよ……。
新学期早々、杏奈の心はどしゃぶりだった。