伸二郎は、英語と数学の問題集を本屋で購入して、家へと帰宅した。

玄関に入ると、母のうれしそうな声がきこえてくる。おまけに、兄もいるようだ。
本当は家族の誰とも会いたくないのだが、リビングに入らないと2階にある自室へは行くことができない。
ため息をついて、リビングのドアを開けた。

「すごいわ~。修ちゃん。1番だなんて、本当に立派よ!」

どうやら夏休み明けにあったテストの成績のことらしい。
母に褒めちぎられている兄、修一は涼しい顔をしていた。

「当たり前じゃん。1番以外は意味がないからな」

すました口調で言うと、メガネを指先でくいっとあげた。伸二郎から見ると、癪にさわる仕草だ。

誰もおかえり、とは言ってくれないので、伸二郎も、ただいま、と言わない。

この家では頭の悪い人間は、空気のような存在なのだ。

母と修一は、テストの成績でまだ盛り上がっている。
苦々しい気持ちで階段をあがり、自室へ入った。

制服のまま、席につき問題集を広げる。
明日は家庭教師が来る日で、毎回ミニテストを出されるので、勉強しておかなければならない。
ミニテストの結果は、その都度両親に報告され、点数が低いと、金の無駄だと言われてしまう。