光子を見ると、困惑した顔をしている。

それから10円玉はピクリとも動かなくなった。

「あのう、まだ指を離しちゃいけないのかな?」

伸二郎がおそるおそる、光子にきく。

なにやら考えてこんでいた光子は、我に返ったような顔をした。

「マリア様の気配はもうしないわ。離していいわよ」

ほっとしたように伸二郎が人差し指を離し、指先をなでていた。

「それじゃあ、私はこれで」

光子は、紙をポケットにつっこむように入れると、いそいそと教室を出て行った。

さっきのはなんだったんだろう。
なんだか、杏奈の胸がざわついていた。

「おれも帰ろーっと。願いが叶って、ハーレムみたいになったら、どーしよっかな~」

語尾に音符でもつきそうな気色の悪い声をあげ、蓮希は教室を出て行く。

「杏奈、どうしたんだ? 黙り込んで」

「えっ、全然大丈夫だよっ」

勇吾が心配してくれたことが、うれしかった。
先ほどのことは、あまり気にしないようにしておこう、と杏奈は思った。