光子が、騒ぎたてる蓮希の口に、人差し指をそっとおしあてる。

「とりあえず、今はそのにぎやかな口にチャックでもしておきなさい。放課後ここで待ってるから。あなたが今騒いだら、みんなが集まってきて大変なことになるわよ」

微笑を浮かべた光子が、蓮希にもわかりやすいように、噛み砕いて教えてやる。

幾分、冷静になった蓮希は無言でうなずき、自分の席へと戻った。

蓮希のすることだから、クラスメイトたちもあまり気に留めなかったようで、教室の空気はすぐ元に戻ったので、杏奈はほっとしていた。

しかし、次に詩織がおどるような足取りで教室へ入ってきた。
そこらにいるクラスメイトに携帯電話の画面を見せている。

「見て見て～、超イケメンでしょ！　あたしの彼氏なんだよ～」

携帯電話の画面を見せられた女子たちが、おどろいた顔をしている。

「えーっ、むっちゃイケメンじゃん！　ていうか芸能人みたいじゃん！」
「いいな～！」

賛辞の言葉を頭からたっぷり浴びた詩織は、有頂天だ。

どうやら、願いごとが叶ったようだ。
しかし、誰かれかまわずに携帯電話の画面を見せて、彼氏自慢をしており、マリア様のことも勢いでしゃべってしまいそうだ。

杏奈は、そっと光子の元へ駆け寄る。