なによっ、イケメンかと思ってドキドキしちゃったじゃない!

詩織は苛立ちながら歩いていた。
そこで、あっ、と思い出す。今日から始まる再放送のドラマを録画していなかった。楽しみにしていたのに、なんという失敗だろう。

今、急いで帰れば間に合うかもしれない。詩織はバス通学なので、まずバスに乗らなければならない。詩織は、全力でバス停へ向かって、走り出した。

この角を曲がれば、すぐにバス停がある――ドンッと誰かにぶつかってしまい、詩織は尻もちをついてしまった。
なんだか最近、尻もちばかりついている気がする。

「あいたた……」

全体重を受けて着地したお尻がビリビリと痛い。

文句でも言ってやろうと、顔をあげたときだった。
すっと手が差し出されてきた。

「すみません、大丈夫ですか?」

心配そうにきいてくるのは、ここらでは有名な進学校の制服を着た男子だった。

詩織は怒りも痛みも忘れ、男子に見入る。

サラサラの絹糸のような紙、男子にしておくにはもったいない白い肌に大きな目……。
とにかく、すべてが詩織のタイプだった。

「あ、いえいえ、こちらこそ、ごめんなさい」

詩織は少し高めの声で言い、男子の手を握りしめて、立ちあがらせてもらった。