イケメンからプロポーズをされ、涙を流しながら、指輪を受け取っていたところを妄想していた詩織は、ようやく我に返った。

教室にはもう誰もおらず、薄暗くなりつつあったので、慌てて家へと帰ることにした。

もう、一花ちゃんったら、一声かけてくれればいいのに。

自分が妄想の世界に旅立っていたことなど、棚にあげ、詩織はプンプンしながら歩いていた。ちなみに詩織はバス通学だ。

最初は光子が、バカなことを言っていると思ったが、杏奈と勇吾の目はウソをついているようではなかった。
それに光子が急にキレイになった理由も、神様が叶えてくれたというなら、なんだか納得できた。

一花も乗り気だったようだし、まあ、願いごとをするだけならタダだから、と詩織は思い、願いごとをしたのだった。

「あのーすみません」と背後から声がした。

イケメンに違いない!

詩織は目をギラギラさせながら、ふりかえる。
しかしそこには、中年のくたびれたサラリーマンが立っていた。

「ちょっと、道をおたずねしたいのですが」

腹の肉がベルトに乗っているのを見て、詩織は、がっかりする。
急いでいるとウソをついて、その場から逃げた。