一花は、心の中で泣いていた。
しかし、こんなバカどもには、絶対に涙を見せたくなくて、歯を食いしばる。

直也は、自分の言葉に一花が反省したと勘違いしたらしく、得意げな顔をして、「行こうぜ」とまどかと手をつないだ。
いちゃつきながら、駅から出て行く。

駅前にとめている原付バイクにふたり乗りしているのが遠目から見えた。ヘルメットをしないまま、原付バイクを走らせる。

直也と付き合っていたときは、よく一花もああやって、後ろに乗っていたものだ。

直也は中学の先輩で、一花はずっと憧れていた。
蓮希に紹介してもらい、知り合いになれ、告白をしたところ、オッケーをもらえたのだ。
その時は涙が出るほどうれしかった。
まさか、こんな砂を噛むような辛い日がおとずれるなんて、あの頃は夢にも思っていなかったが。

ふいに、あの日のことがよみがえってきて、一花は思い切り泣きたくなった。

右耳のピアスをそっと手のひらでおさえ、トイレの個室でひっそりと泣こうと思った。
トイレに向かおうとしたとき、外から爆音が響いてきた。