わきあがる憎悪をなんとか押し殺していると、背後から底抜けに明るい声がした。

「まどか~、おまたせ~」

間抜けな笑顔を浮かべて、こちらへ来るのは、元彼の直也だ。

怒りに震えている一花を見て、凍りついている。

「いや~ん、直也ぁ。たすけてぇ。この女にひどいこと、いっぱい言われたのぉ」

甘ったるい声をあげて、まどかが直也に、タコのようにからみつく。

「そうなのか?」

「え~ん、そうだよ! こいつになにか言ってやってぇ」

まどかが、泣き真似をしながら、直也の後ろに隠れる。

「おい、お前! もうおれたちにかかわってくるな。おれたちの幸せを壊さないでくれ」

直也は、一花を軽蔑したような目で見ながら吐き捨てるように言う。

お前か……。
少し前まで、一花愛してる、と毎日のように言ってくれたというのに。

直也の後ろにいるまどかが、バカにしたように舌を出してくる。

幸せ?
一花は拳をぎゅっと握りしめる。

そのあんたらの幸せは、私の血反吐を吐くような苦しみの上になりたってるんだよ?
直也、あんたは自分がしたことを忘れてなに言ってんだよ……。