帰り道――杏奈は、一花のことをきいてみた。

「水谷さんの元彼のこと、勇吾はきいていたの?」

「ああ……夏休みから知ってた。バイトが終わって、繁華街を通って帰っていると、一花がヤバそうな男たちに連れまわされていたのを見つけたんだ。あいつ、ボーっとしていて、なにも考えていないようだったから、ヤバイと思って、隙をついてダッシュで手を引いて逃げたことがあったんだ。
その時、浮気されて、いろいろあって……自暴自棄になっているって、話をきいた……」

勇吾は悲しげな目で、夕日を見つめる。

「なんだか、一花を見ていると、父さんが死んだあとの、やけくそになっている自分に似ていて、ほっとけなかったんだ。
大切な人を失った悲しみは、おれにもわかるから……。一花の奴、それ以来引きこもりみたいになってたから、新学期が始まってから、一花の家まで迎えに行ったりしてたんだ。
でも、一花はどんどん目つきが悪くなって、心が荒んでいってしまって……。
初めて会う男と、自分の体を痛めつけるようにして遊んだり、中沢とつるんで、いじめまがいのことをしたり。そんなことをしても意味がないって、言ってたんだ」

「そうだったんだ……」

勇吾の話をきいた、杏奈は重苦しい気持ちになり、うつむいた。

そんな悲しいことが一花にあったなんて……。
あの人形のような無感情な瞳は、それが原因だったのだろう。

「願いが叶って、元の明るい一花に戻ってくれればいいんだけど……」

勇吾のつぶやきに、杏奈はそっとうなずいた。