「子供……れて……よ」

 後方で騒ぐ子供達の声で、彼の言葉がかき消される。片耳を指で押さえ、はしゃいでいる子供達を横目で見ながら、彼にもう一度聞きなおした。

「え? ごめんなさい、何て?」
「子供達も連れておいでよ、うちの子達も連れて行くから」
「──」

 彼女は一瞬自分の耳を疑ったが、次の言葉でやはり聞き間違いではないのだとわかった。

「今からそっちに向かうから、子供でも楽しめる所へ行こう」
「……うん!」

 その言葉を聞いて思わず笑みが零れる。
 いつもは子供達の気持ちを最優先にして、園に行っている間の少しの時間しか会うことが出来なかった。お互いに子供が成人する日まで、もう二度と恋はしないのだと誓って居た二人だったが、ひょんなことで出会い───そして恋に堕ちた。
 誓いを破ってしまったことへの背徳感に苛まれ、我が子には決して気付かれてはいけないと誰にも彼の事を話さずに今までやって来た。それが、彼からの思い掛けない言葉により、頑なにそれを守って来た彼女の心に変化をもたらした。
 今まで我慢していた感情が堰を切って溢れ出る。罪悪感とか、後ろめたさとか、一切合切流れ出て、最後に残ったものは彼女の本当の気持ちだけだった。

 ──もう、迷わない。
 彼の一言で彼女の心の支えが一気に取れた。